【デンソー×東洋美術学校】の産学連携プロジェクト
先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーである株式会社デンソーと東洋美術学校は、問いをたてるデザイン(スペキュラティブデザイン)の領域においてコラボレーションを行いました。
プロジェクトの目的や意図
未来にいる自分の『内面』はいったいどうなっているのか。
目に見える未来を予測するのではなくて、未来の『感覚(クオリア)』を掴んで現代に持ってくる。
未来の感覚から現代を見渡した時に、だれも考えていなかった切実なる問いとは何か、常識から逸脱しなければいけないことは何か、それをさせる純粋さとは何か、未来からとってきたクオリアとは何か、これからのデザインに必要な力を鍛えるプロジェクトとなりました。
選考を通して、東洋美術学校からはクリエイティブデザイン科高度コミュニケーションデザイン専攻2年の河津さん、クリエイティブデザイン科高度プロダクトデザイン専攻4年のLIAOくん、イラストレーション科イラストレーターコース2年の姉帶さん、合計3名の学生がデザインスプリントに参加しました。
課題内容
まだ見ぬ2050年の未来社会の課題を問う。
事前課題|純粋 (2024/1/11-23)
・2050年の社会をイメージ。そこで生活している自分や、あってほしいものや仕組み、自身が経験したいことをイメージする。
Phase1|切実 (2024/1/29~2/9)
・思い描く未来現実を阻害している現在の問題の定義
・主観+リサーチ結果+分析(客観的アプローチ)
① Wording
2050年、自分のテーマが実現した時、それをプロモーションするメディアのタイトルデザインを制作
・必ず『造語』を加え、そこにメッセージ性を付加する
・単なる文字ではなく、形、色、音、全体バランスで表現する
・ただし、背景は無し。文字だけで表現する
② 立体Collage
Wordingで伝えきれなかった感情や感覚、自分の中にある感覚や感情、クオリアを立体化
・まずは年度や発泡スチロールを使って感覚、感情、クオリアを表現するコラージュを造る
・雑誌の切り抜き等を使って感覚、感情、クオリアを表現するコラージュを造る
・最後に立体にコラージュをきれいに張り付けて一つの造形にする
※どの部位にどのコラージュのイメージが来るかを吟味しながら進める
Phase2|逸脱 (2024/2/13-2/22)
普通に考えると乗り越えられない溝を乗り越える、常識はずれなアイデア創出。
・思い描く未来現実と現在の間に立ちはだかる「ギャップ」を明示
・そのギャップをクリアするためのアイデア創出
ブラッシュアップしたアイデアをプレゼンテーションする。
Phase3|デザインスプリント (2024/2/26-3/1)
愛知県刈谷市の本社にてデザインスプリントを実施。
デンソー先端技能開発部のメンバーとペアを組み、アイデアを具現化する。アイデアの核を見抜き、どのような価値を見せたいか、表現方法を一緒に考えながらモノづくりを行う。
デザインスプリントとは?
デザインスプリントは、新しい製品やサービスのアイディアを迅速に検証するための5日間程度の集中ワークショップ形式のプロセスです。デザイン思考とアジャイル開発手法を取り入れたハイブリッドな開発手法です。
1day 理解 解決すべく課題を定義・検証
2day 発散 課題を解決する為のアイデア出し
持ち込んだアイデアが対象としている課題は本当に乗り越えるべきものなのかを再考。
誰の課題?本当に考えなければならないことなのか?今は解決はできないかもしれないが、解決できた未来の状態を体験し共有するためには何をすべきか? 先端企画室・先端技能開発メンバーを会話をしながら深掘りしていく。
3day 決定 検証するアイデアを決定する
4day プロトタイプ 実際に利用できるプロトタイプを製作
「理解・発散」で生まれた沢山のアイデアを横見らみしながら、最も重要で表現すべきコアとなる価値を学生×デンソーメンバーでディスカッションしながら抽出。解決できた未来の状態を体験し共有するためには何を作ればよいか、どう表現すればよいかの狙いを定める。最も簡便に、その価値を体感する「方法」とそれを実現する計画を立てる。実際にモノづくりメンバーと作ってみる。
5day 検証 プロトタイプを使い仮説検証
モノづくりメンバーと一緒に製作したものを第三者にプレゼンテーションする
Phase4 (2024年4月以降)
株式会社デンソー本社オープンスペースでの発表を実施、東洋美術学校ギャラリーでの発表を実施、名古屋大学での発表を予定。
成果物について
デザインスプリントを通して制作された成果物を、2024年6月10日(月)〜14日(金)の期間、創造「未来の主役プロジェクト」と題し、東洋美術学校ギャラリーにて展示。そして来場者に向けて学生自ら成果物について説明や発表をしました。
改めて参加学生3名に今回の成果物についての概要と、参加したキッカケや参加しての感想をお聞きしました。
すれ違いに苦しむ君、サイコロを振れ!
考案者:クリエイティブデザイン科高度コミュニケーションデザイン専攻 2年 河津美咲
感情の見える化で私たちの生活はどう変化するか?
[自分の内面から湧き出る感覚を純粋に見つめる]
理解できないこともある/シンプル/面倒
[切り拓かなければならない未来を切実に思う]
信頼/円滑/距離感
[逸脱した発想で未来のクオリアをとってくる]
自己理解/相互理解/解散
アイデアの概要
私が描く2050年の世界では頭上に花を表示し、色や動きなどで他者、そして自分の感情の可視化を行います。 日本に根付いている「空気を読む」という文化は、柔らかく繊細なコミュニュケーションを作りますが、その遠回りは時にすれ違いを起こします。 最終的に私が目指すのは、自分の主張したい意見を相手にぶつけ合える関係性の構築です。
参加しようと思ったキッカケ
私は元々学校の授業以外の経験を得るために、1年生(当時)でも参加出来るインターンシップを探していました。今回長期の取り組みがあるということで不安な点も多かったですが、東洋美術学校がプロジェクトに携わっているということで、不明点やスケジュールなど、こんなにも相談しやすい環境で活動ができる機会は中々ないと考えたのが参加したいと思ったきっかけです。
プロジェクトに参加した感想
こんなにも自分の内面と向き合うことも、誰かにその思いを共有する機会もなかったため、数日かけて考え続けることと、言語化が大変でした。考えが行き詰まった時には、外に散歩へ出かけて気分転換したり、ほかのメンバーの思いや意見を聞いたりと、自由に動いていい環境だったのですが、アイデア出しにとても有効だと感じたので他の場所でもこの考えが広がればいいなと思います。
今回のプロジェクトでは、初めて会う方が沢山いたので不安でしたが、それぞれが思い描く世界を教えてもらったり、完全否定のない意見交換を何度も重ねることが出来て、とても居心地が良かったです。このプロジェクト自体、私の思い描く理想の未来に近い環境だったのではないかと思います。色々な経験が出来ましたし、とても面白いプロジェクトでした。
No! 脳、 純粋な五感から生まれた『第七法』
考案者:クリエイティブデザイン科高度プロダクトデザイン専攻 4年 LIAO HAO TING
脳は私たちのすべてですか? 脳を「休めた」あなたの価値はなんですか?
[自分の内面から湧き出る感覚を純粋に見つめる]
不公平/恐怖/未知
[切り拓かなければならない未来を切実に思う]
包容/寛恕する/感心
[逸脱した発想で未来のクオリアをとってくる]
無限感/心安らぐ/神秘性
アイデアの概要
情報化社会が加速し、人工知能の精度が高まった環境において、生き残るための方向性は、従来の脳中心のアプローチではなく、新しい道が必要とされています。意識は、ある意味で脳のバグとも言えます。コンピューターが情報処理を行う際に、熱や光、バグなどの「ゴミ」を出すのと同様に、私たちの認識システムのバグとして意識が存在します。
人類の価値は、脳や意識だけにとどまりません。これまでの社会は脳に基づいて発展し、発明や革命、対話、争いを続けてきましたが、未来の社会では、脳に加えて私たちの純粋な五感からも新たな技術や体制が生まれるでしょう。脳がない単細胞生物でさえ、私たちにとって不思議な存在であり、脳が生命の唯一の可能性であることを否定するわけではありません。
このような視点から考えると、人類の未来は、脳と意識の枠を超えた全体的な存在としての価値を見出し、新しい技術や体制を模索することが求められると言えるでしょう。
参加しようと思ったキッカケ
面白そうだったので。
プロジェクトに参加した感想
デンソー先端開発部門の共同プロジェクトは、私が最も経験した取り組みでした。自分の想像する未来と価値観がデンソーのインハウスデザイナーやエンジニアに伝わり、共感を得ることができました。本社に行く前に、自分がやりたいことを文字と立体構造で表現し、デンソーのデザイナーからフィードバックを受けながら、2ヶ月間改良を重ねました。本社で1週間、バディエンジニアと協力し、私たちが表したい未来を立体化し、デザイナーたちにプレゼンテーションしました。
私やデンソーのデザイナーやエンジニアたちの視点から考え、私が信じている未来に他の人々が共感してくれたことは素晴らしい経験でした。このプロジェクトを通じて、デザインスキルだけでなく、学外の皆さんとのチームワーク、制作技術、プロジェクト管理など、多くのスキルと知識を得ることができました。
タマゴパニック〜からのともだち〜
考案者:イラストレーション科イラストレーターコース 2年 姉帶陽日向
なぜ人間は人間を共同体だと認識しないのか。誰かと手を繋いで踊れば、生活はもっと輝きだすはず。
[自分の内面から湧き出る感覚を純粋に見つめる]
実態/触覚/温度
[切り拓かなければならない未来を切実に思う]
共同体認知/おかしい毎日/踊ってばっかり
[逸脱した発想で未来のクオリアをとってくる]
天罰/迷惑/強制
アイデアの概要
駅や電車の中などで急に誰かが大きなタマゴに閉じ込められて、それをみんなで助けるというもの。人間の関係の薄さや、それぞれを共同体として認識していない現状に不快感があるため、強制的に団結させることで仲間意識を持たせるためのツールです。
参加しようと思ったキッカケ
製品の企画に興味があったから。また、愛知県に行ってみたいなあと思ったから。
プロジェクトに参加した感想
色々な大人がいて、私の意見を「そんなことできるわけが無い」「意味がわからない」などと言わずに、全力で技術を使って再現(実現)しようとしてくださったことが嬉しかったです。あの空間には本気で自分達のしている事が正しいと信じている人しかいなくて、そんなアツい人達と一緒に今回のプロジェクトが行えたことは、自分にとってすごく大きな経験だと感じています。
担当講師コメント
デザイナーのアーロン・ウォルターとジャレッド・M・スプールは、マズローの欲求段階説をユーザーエクスペリエンスに当てはめました(アーロン・ウォルター、ジャレッド・M・スプール『感情に訴えかけるデザイン」2011年)。インタラクションデザインの基本要素である機能性、信頼性、使いやすさの上に『楽しさ』が据えられています。
また、フランスの哲学者ロジェ・カイヨワは著書『遊びと人間』の中で「人はなぜ、どうしてもしなければならないわけでもない非生産的な事をわざわざするのか。それは自身の有する技術的・知的・身体的・精神的能力を最大限に無駄遣いしたい為である」と説明しています。
現代の人間は慢性的にエネルギー過剰の状態にあります。生存するのに必要不可欠な量を超えた過剰なエネルギーは、承認欲求になったり、贈与になったり、遊びや文化を生成します。
そんなところに、これからのデザインの居場所があるのではないかと感じるプロジェクトとなりました。
参加した学生たちは、ものづくり企業とのコラボレーションはデザイナーのスキルセットとして必要とされる、ユーザーエクスペリエンスへの理解、事業開発への理解、プロジェクトをプランニングしてリードする力、コンテンツマネジメントとデザイン、フロントエンドとバックエンドを理解して作り切る力、QA(品質保証)などへの経験と理解を深めるとてもよい機会となりました。
さらに、イギリスの王立芸術大学院(Royal College of Art)のアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが提唱したスペキュラティブデザイン(Speculative Design)、問いを生み出し、世界に別の方向を示すデザインの方法論も体感できたのではないでしょうか。
東洋美術学校
クリエイティブデザイン科高度コミュニケーションデザイン専攻
ユーザーエクスペリエンス担当講師
石塚集
株式会社デンソーの皆様、ありがとうございました!